クマべえ先生の行政書士試験合格ゼミ

過去問講義 H17年基礎法学のページ

◆重要度:中

問題1 裁判に関する次の記述のうち、誤っているものはいくつあるか。

ア 裁判所は、法令適用の前提となる事実の存否が確定できない場合であっても、裁判を拒否することはできない。

イ 最高裁判所は、憲法その他法令の解釈適用に関して、意見が前に最高裁判所のした裁判または大審院のした裁判と異なるときには、大法廷で裁判を行わなければならない。

ウ ある事件について刑事裁判と民事裁判が行われる場合には、それぞれの裁判において当該事件に関して異なる事実認定がなされることがある。

エ 裁判は法を基準として行われるが、調停などの裁判以外の紛争解決方法においては、法の基準によらずに紛争の解決を行うことができる。

オ 上告審の裁判は、法律上の問題を審理する法律審であることから、上告審の裁判において事実認定が問題となることはない。

1 一つ
2 二つ
3 三つ
4 四つ
5 五つ

【問題1の解説】 難易度:難

 裁判制度を問うこの問題は、行政書士試験受験生にとっては苦手になりやすい問題ですね。といいますのは、行政書士試験には、民事訴訟法や刑事訴訟法が出題されないため、詳しく裁判制度を勉強する機会がないからです。
 しかも、個数問題ですので、なかなか得点できないと思います。

 では、各肢別に解説します。

 肢ア:この肢は判断しやすいですね。私たちは、憲法で、裁判を受ける権利が保障されていることを学ぶからです。裁判所が裁判を拒否する、ということは、裁判を受ける権利の侵害になりますので、裁判所は、裁判を拒否することはできません。


 肢イ:この肢は、どのような場合に、最高裁判所の大法廷で裁判を行わなければならないかの知識を問う問題です。

 これは、裁判所法10条に規定がありますので、見ておきましょう。

第十条 (大法廷及び小法廷の審判) 事件を大法廷又は小法廷のいずれで取り扱うかについては、最高裁判所の定めるところによる。但し、左の場合においては、小法廷では裁判をすることができない
一 当事者の主張に基いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを判断するとき。(意見が前に大法廷でした、その法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するとの裁判と同じであるときを除く。)
二 前号の場合を除いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合しないと認めるとき。
三 憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき

 この条文の中の青文字の部分を見てください。この肢の文は、この青文字部分の知識を問うているのです。

 この青文字の部分は、憲法などの解釈適用についての判断が、以前に最高裁判所のした裁判に反するときは、大法廷で裁判しなければならない、ということを定めています。

 そして、この条文の中に、「〜大審院のした裁判と異なるときには、大法廷で裁判を行わなければならない」とは書いていないですね。「最高裁判所の」としか書いていません。

 つまり、憲法などの解釈適用について、意見が前に大審院のした裁判と異なるときであっても、大法廷で裁判を行う必要はない、ということです。

 よって、この肢は「〜大審院のした裁判と異なるときには、大法廷で裁判を行わなければならない」とされている点で、誤りです。


 肢ウ:まず事実認定とは、そのような事実があったかどうかを、証拠に基づき裁判所が判断することをいいます。

 たとえば、AさんはBさんを殺害したとして刑事裁判にかけられているとします。

 この場合、裁判所は、AがBを殺害したという事実が本当にあったのかどうかを、証拠により判断するのです。これを事実認定といいます。

 そして次に、この事実認定は、刑事裁判では刑事裁判で独自に行い、民事裁判では民事裁判で独自に行います。刑事訴訟手続と、民事訴訟手続は異なる訴訟手続だからです。

 たとえば、先ほどの例で言えば、検察官がAを起訴し、刑事裁判にかけられているのと同時に、Bの遺族がAに対して不法行為に基づく損害賠償請求を求めて民事裁判を起こしたというような場合、事実認定は、それぞれの裁判で独立して行われるのです。

 よって、この肢は妥当です。


 肢エ:この肢は、調停など裁判外の紛争処理についての知識を問う問題です。

 裁判外で紛争処理を行うメリットのひとつとして、法律の内容にしばられずに、紛争当事者にとって妥当な結論を見つけ出す、ということがあげられます。

 しかも、裁判所を利用して行う民事調停などでも、裁判官は、法律の内容にしばられずに結論を出すことができるのです。

 ですので、この肢は妥当です。


 肢オ:この肢は少し難しいですね。まずは法律審事実審について説明します。

 たとえば、AさんがBさんを殺害したとします。この場合、本当にAがBを殺害したのかどうかを審理しなければなりません。これを事実問題といいます。

 さきほど、肢ウのところで、事実認定を学びましたね。それは、この事実問題を、証拠により裁判所が判断することを事実認定というのでした。

 次に、AがBを殺害したことが認められたとしても、刑法上、どの罪に問うのかを考えなければなりません。

 たとえば、殺人罪が成立するのか、それとも過失致死罪が成立するのか、などを判断しないといけないのです。

 このように、認定された事実を、どの法律にあてはめるのか、またその法律をどのように解釈するのか、ということを審理することを法律問題といいます。

 そして、この事実問題と法律問題の両方を審理することを事実審といい、法律問題だけを審理することを法律審といいます

 では次に、上告審(普通は最高裁判所ですね)では、事実審、法律審、どちらを扱うのでしょうか?

 それは、民事裁判・刑事裁判ともに、上告審では、法律問題だけを扱うのです。つまり法律審です。

 しかし、上告審で事実認定に重大な誤りがあることが判明したときは、差戻し判決といって、控訴審裁判所などに「もう一回事実認定をやりなおせ!」と突っ返すことができるのです。

 つまり、上告審では、自ら事実問題について判断を下すことはできませんが、控訴審裁判所などが行った事実認定について、何か問題があれば、それを判断し直すように控訴審裁判所などに突っ返すことはできるのです。

 ですので、この肢は「上告審の裁判において事実認定が問題となることはない」とされている点で誤りです。


 以上より、誤っているものは肢イ、肢オの2つですので、答えは2です。



◆重要度:中

問題2 情報と法に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。

1 電子署名法※1は、電子署名に、自然人の本人確認だけではなく、会社などの法人の存在証明としての効力を認めるものである。
2 刑法における窃盗罪が成立するためには、財物の占有が奪われることが必要であり、情報が記録されている媒体を持ちさることなく情報だけを違法に収得しても、財物占有が奪われることはないから、窃盗罪は成立しない。
3 著作権、特許権などの情報に関する知的所有権が財産として保護されるためには、官公署に登録されることが必要であり、登録されていない著作権、特許権は第三者に対抗することはできない。
4 インターネット上の情報について、憲法上、表現の自由は保障されているが、通信の秘密の保護の対象となることはない。
5 平成17年4月に施行された個人情報保護法※2は、情報公開法※3とは異なり、電子計算機により処理された個人情報についてもっぱら適用され、手書きの個人情報について適用されることはない。
(注)
※1 電子署名及び認証業務に関する法律
※2 個人情報の保護に関する法律
※3 行政機関の保有する情報の公開に関する法律

【問題1の解説】 難易度:標準

 時事的な要素の強い問題ですね。肢2の内容については、最近マスコミなどでも取り上げられていましたので、それを知っていた方にとっては易しい問題だったのではないでしょうか。

 肢1:電子署名法3条に「電磁的記録であって情報を表すために作成されたものは、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定する。(一部省略しています)」とあります。

 つまり、電子文書に電子署名が行われている場合は、その電子文書は真正に成立したものと推定すると定められているだけで、自然人の本人確認としての効力を認める規定はありませんし、法人の存在証明としての効力を認める規定もありません

 よって、この肢は誤りです。


 肢2:刑法235条に「他人の財物を窃取[せっしゅ]した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」とあります。

 この条文の中に、「他人の財物」とありますが、この「財物」に「情報」は含まれないと考えられています。「情報」は物ではありませんし、「物」とみなすのには無理があるからです。

 ですので、情報を窃取しても、「他人の財物を窃取」したことになりませんから、窃盗罪は成立しません。

 よって、この肢は妥当です。


 肢3:特許権や商標権などは、官公署に登録することで成立しますが、著作権は無方式主義と言いまして、官公署への登録が成立の要件とされていません。これは、著作権法17条2項に「著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。」とある通りです。

 しかしその反面、著作権法77条には、著作権の登録についての定めがあります。このあたりは、少しややこしい制度ですので、説明しておきますね。次の条文を見てください。

著作権法77条 次に掲げる事項は、登録しなければ、第三者に対抗することができない。」
一 著作権の移転(相続その他の一般承継によるものを除く。次号において同じ。)又は処分の制限」
ニ 著作権を目的とする質権の設定、移転、変更若しくは消滅(混同又は著作権若しくは担保する債権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限

 これは、著作権の移転や、著作権に質権を設定したりする場合、登録しておかないと第三者に対抗できませんよ、ということを意味します。

 つまり、著作権の移転は、登録しないと第三者に対抗できませんが、著作権の成立は、登録しなくても第三者に対抗できるということを定めているのです。

 よって、この肢は誤りです。


 肢4:憲法21条2項後段に「通信の秘密は、これを侵してはならない。」とあります。この通信の秘密に、インターネット上の情報に関する秘密も含まれると考えられています。

 インターネット上の情報に関する秘密についてだけ、国家権力の介入を無制限に許す合理的な理由がないからです。

 よって、この肢は誤りです。


 肢5:個人情報保護法2条2項2号に「前号に掲げるもののほか、特定の個人情報を容易に検索することができるように体系的に構成したものとして政令で定めるもの」とあります。

 これは、個人情報保護法の保護の対照として、電子計算機により処理された個人情報だけでなく、手書きなどによる個人情報も含むことがありますよ、という意味です。

 よって、手書きの個人情報についても、個人情報保護法が適用されることがあり得るので、この肢は誤りです。


 以上より、答えは2です。


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